デッドエンド
デイナイト
Radio:Deadend
Daynight

new 2025.07.30
scroll

ご注意

ここは多分行き止まり。
つまりは創作の短文や、日記みたいなものを気ままに載せておこうかと。
書き散らしでも置きます。文字のラジオ局にきっとなるでしょう。

小咄

海より深い没頭
文字の海に潜る
煩雑な悪魔と契約書
人でなしと巻き込まれた男の話
汪の話
星の使徒がただの人間になる話
こうして言葉に残すと正気に戻る話
夏の影
夏は白いものだと思っていた影の話

狐面の男

 おまえは、人にも自分にもあまり興味がないんだな。興味のあるふりをしているだけだ。人間の物真似を繰り返しているに過ぎない。
 おまえが興味を持っているのは、その人間の脳の中にある経験と知識だけだ。それを盗み見た時のみ、おまえは快楽を得るのだろう。纏っている外套になぞ興味はない。まるで怪奇だよ。人の頭部だけを食らう、脳髄だけを啜る怪奇のようだ。
 きっとおまえは人の身を食らったからその姿があるに過ぎない。
「あらまぁ、お上手だこと」
「しなを作ったって無駄だよ、女狐め」
 ひとのことを散々に言う男の眼鏡を横から攫い、狐面は試しに自分の顔に掛けてみた。
「大将、あちきが女に見えておいでです?」
「今のところは見えているが、眼鏡を返したまえ。僕の視力を侮ってはならない。何も見えん」
 狐面は自分の目をぐわんとさせる眼鏡を男に戻してくれてやる。
「大将は、あちきの正体ご存知かしらと思ったのに」
「狐の面は便利だなぁ」
「ほうら、やっぱりわかってらっしゃる」
 着物の袖を口元にやって、狐面はこんこんと笑う。
「大将の方こそ、狸ではありません?」
「僕が怪奇か。やだねぇ、三文小説にもなりやしない」
「あちきを書いてくださってもよござんすよ」
「はは、意地も悪い味も悪い、狐の化物を?」
 それこそ、三文にもならないね、と男は笑った。眼鏡の向こうで細められた目が嫌みったらしい。
 狐面は、それこそいやらしいと思いはするものの、この男のことを嫌ってはいない。
「人に怪奇だの化け物だの言うなんて」
「本当のことを言って何が悪いやら」
 男が蓄えたひげに指先を伸ばして、狐面はまたこんこんと笑う。
「先日お前の顔をした男を見たね。役者仲間といたかな」
「あらやだ、お顔が一緒だなんて、生き別れのお兄様かしら」
「狐のかい」
「大将、とってもしつこいねぇ」
「役者になりたいのかい」
 男の首を掴んでやろうと思ったが、狐面はぴたと手を止めた。どうやら本当に、この男、狐面の正体を探っているらしい。
「大将がお口添えしてくれるんで?」
「……何者にも化られるもののけが、役者になりたいだなんて面白い」
 蓄えたひげを震わせ、男が笑う。
「何者にも化られるからこそ、食い扶持に丁度良いのさ」
 狐の世も世知辛し。同じように人の世も世知辛いに違いはないが、狐面は人よりようく金も人も食う。だから、稼がにゃならんのだ。そう言えば、男はニマニマと笑った。
「役者なんぞより、良い仕事がある」
「へえ、無学なあちきに紹介するような仕事でござんすか」
 そう問えば、ひげの男は途端に狸のような顔でぐわははと笑った。上品な見た目にそぐわぬ下品な笑いだと狐面は僅かに落胆する。
 人というのはどうにも下品である。
「倅が小間使いを探しておる。役者のできるものであれば尚のこと良いそうだ」
「小間使いだって?」
 狐面は、つんと口の先を尖らせた。

脳が見る

空気中の煌めきが目に視える者が、まともであるはずがないのだ。神経は焼き切れて皮膚の内はちりちりと電気が走り、目は血走っている。だからこそ、この世に火花が散って、煌いて見えるのだから、そうやって世間を美しく捉える者がまともであるはずもなく、彼らはとうに一線を越えてしまった。
まともであるはずがない。この世は兎角、醜悪で澱んでいる。細菌や魑魅魍魎が跋扈しているのが常であるのに、よもやそれを美しいと言うなどと。その上、所業悪しきそれらの塵を、ものの見事に賛辞して、まるで世界が立派なもののように嘯き描くなどと。
そんなことが出来る者が、まともであるはずがないのだ。
そう、書を嗜む者がまともであるはずがないのだと、小生は繰り返した。それ以上に書き手などはまともでない。読み手も書き手もまともではないのだ。脳はとうに焼かれている。
    

壁、落書き

ここを埋めないとならないらしいが、今は何も思い付かない。午前三時のことである。

絵でも置いておこう。